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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)9482号 判決 1995年6月19日

原告

金成淑

被告

橋戸俊雄

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは各自原告に対し、金九九九万九一三二円及びこれに対する平成二年一〇月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

普通乗用自動車と足踏式自転車の衝突によつて足踏式自転車の運転者が傷害を負つた事故において、被害者が、普通乗用自動車の運転者に対して民法七〇九条に基づき、被害者が保有者と主張する者に対して自賠法三条に基づき、それぞれ損害賠償を請求した事案である。

一  当事者に争いがない事実等(証拠によつて認定する事実は証拠摘示する。)及びそれに基づく判断

1  本件事故の発生

発生日時 平成二年一〇月二五日午前八時五分頃

発生場所 大阪市生野区勝山北二丁目一七番一四号先路上

事故車両 普通乗用自動車(なにわ五六つ九五五九)(被告車両)被告橋戸運転

被害車両 足踏式自転車(原告車両)

原告運転

2  原告の受けた傷害

原告は、本件事故により、第一二胸椎圧迫骨折の傷害を負い、平成二年一〇月二五日から同三年一月二四日まで(九二日間)アエバ外科病院に入院し、同年一月二五日から同年四月三日まで同病院に通院し(実通院日数五一日)、平成三年四月三日症状固定した(甲三、四)。

3  損害の填補

原告は、本件事故に基づく損害について、合計四三六万円の支払いを受けた。

二  争点

1  被告橋戸の責任、過失相殺

(一) 原告主張

本件事故は、原告車両が被告車両に追突されたものであるから、被告橋戸には、前方不注視の過失があり、民法七〇九条に基づく責任がある。

なお、このような事故態様からすると、過失相殺は認められない。

(二) 被告橋戸主張

本件事故は、被告車両が原告車両に追突したものではなく、原告が南北道路を横断する意思を有したか否かはともかく、原告車両が車道に一・二メートル入つた地点を走行し、被告車両の左側に寄り掛かつて衝突したものであるから、被告橋戸に過失及び責任はない。仮に、被告橋戸に河らかの過失があつたとしても、原告の右走行態様からすると、相当程度過失相殺されるべきであつて、原告には、既払い金を超える損害はない。

2  被告会社の責任

(一) 原告主張

被告会社は、被告車両の保有者であつて、本件事故当時、被告車両をその運行の用に供していたから、自賠法三条の責任がある。

被告会社主張の譲渡は否認する。

仮に譲渡があつたとしても、被告会社が、被告橋戸から未収金を回収するために、名義変更を留保したものである。そうでなくとも、被告橋戸は現在も被告会社の取締役であり、被告会社は、いつでも被告車両の名義を変更しうる立場にあつたので、被告車両の名義変更を放置していたと言わざるを得ず、鼓告会社は、被告車両の運行について、指示、制御をなし得べき地位にあつたから、運行供用者として、自賠法三条の責任がある。

(二) 被告会社主張

被告会社は、昭和六三年八月三一日頃、被告車両を被告橋戸に譲渡したから、自賠法三条の責任はない。

また、被告橋戸は、一期だけの名目上の取諦役であつて、本件事故当時、登記名義が放置されていただけのものであつて、被告会社の取締役ではなかつた。また、被告橋戸は、本件事故当時、被告車両を大阪での自己の事業に使用していたもので、被告会社のために利用していたものではなく、管理も一切被告橋戸が行つていたものであるから、被告会社は、被告車両を譲渡後、まつたく運行利益を得ておらず、運行支配を行つていない。

3  損害

(原告主張)

治療費一九四万一二〇〇円、入院雑費一一万九六〇〇円(1300×92)、休業損害一二七万九六八〇円(7998×160)、逸失利益五九六万八六五二円(198万3600円×0.20×15.045)、入通院慰藉料一四六万円、後遺障害慰藉料二六九万円、弁護士費用九〇万円

第三争点に対する判断

一  被告橋戸の責任及び過失相殺

1  本件事故の態様

(一) 前記認定の事実に、甲八、一一の1ないし4、一二、証人神農の証言、

被告橋戸本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

本件事故現場は、南北道路と東西道路の交わる、交通整理の行われている交差点(本件交差点)附近であつて、その概況は、別紙図面のとおりである。本件道路はアスフアルトで舗装されており、平坦で、本件事故当時乾燥しており、市街地にあつて、交通量は普通であつた。南北道路は、最高速度が時速四〇キロメートルに規制されていた。

被告橋戸は、被告車両を運転して、南北道路を北進していたところ、本件交差点の対面信号が赤であつたので、別紙図面<1>附近(以下、符号のみで示す。)で停止した。対面信号が青となつたのを見て、発進し、<2>で対向車線の右前方を確認し、そのまま進行したところ、<3>に至つて、三・二メートル左前方の<ア>を道路中央に向かつて斜めに走行中の原告車両を認め、危険を感じ、ブレーキをかけたものの及ばず、<3>の五・三メートル北側の<4>に至り、<イ>の原告車両右側面と被告車両左前フエンダー附近が<×>で衝突し、被告車両は<5>で停止した。

(二) なお、証人神農は、原告が原告車両は被告車両に追突されたと述べていたと証言するものの、事故直後の実況見分調書である甲八に記載されている原告車両の損傷状況は右側面前部に集中していること、証人神農の証言、被告橋戸の本人尋問の結果によつて認められる神農が被告橋戸との交渉の際、被告橋戸に本件事故が追突である旨伝えたことはなく、かえつて、本件事故には双方に責任があることを前提としていたこと、原告本人の陳述書である甲一一の1にも詳細な事故態様の記載のないことからすると、右神農の証言が正確に本件事故態様を反映したものであるかには疑問があり、本件事故当日の実況見分調書である甲八、被告橋戸本人尋問の結果に照らし、採用できない。

2  当裁判所の判断

右事実によると、被告橋戸が、原告車両が被告車両の進路方向に斜めに進入しているのを認めたのは、原告車両の右後方三・二メートルの位置であつて、衝突地点の五・三メートル手前であつたので、そこからハンドル、ブレーキ操作で回避することは困難であるが、被告橋戸は、それ以前の原告車両の存在ないし動静の確認をしていないので、前方不注視の落度はあつたと認められる。しかし、証拠上、その際の原告車両の詳細な走行位置・態様を特定できないので、被告橋戸が原告車両を注視していたら、右測への進入を予期でき、本件事故を回避できたとまでは推認できず、右落度と本件事故に因果関係があるかには問題がある。

しかし、仮に、因果関係を肯定できたとしても、原告が南北道路を横断する意図を有していたか否かはともかく、原告車両は軽車両であるのに、道路左端を道路と平行に進行するのではなく、道路端から急に斜めに進行し、最終的には道路端から右側一・二メートルの位置である<イ>まで進出したところ、その直後には被告車両が迫つていた状況であつたから、原告には、少なくとも、後方確認が不十分であつたという過失があつたと推認され、相当の過失相殺がなされるべきである。そして、前記の位置関係からすると、原告車両は、被告車両の直近を、急に右斜めに横切る形となつたから、原告車両の車種を考慮に入れても、本件事故のほとんどの原因は原告の過失によるものといえ、少なくとも七割過失相殺をするのが相当である。

二  被告橋戸に対する請求

そして、原告の主張する損害の合計は、弁護士費用を除くと一三四五万九一三二円であるから、前記の過失相殺を考慮すると、既払い金四三六万円を超える損害はない。したがつて、被告橋戸に対する請求は認められない。

三  被告会社に対する請求

したがつて、原告の被告会社に対する請求も認められない。

また、甲二、九、一〇、丙一、二、被告橋戸本人尋問の結果によると、大阪で事業を営む被告橋戸は福岡市所在の被告会社と取引関係があり、その関係で、当時被告会社所有の被告車両を被告橋戸が借り受けて使用していたこと、被告会社は、昭和六三年八月三一日までに被告橋戸に被告車両を譲渡したこと、被告会社と被告橋戸の取引は平成二年四月頃なくなつたが、被告会社の被告橋戸に対する売掛金の残高については当事者間で見解の相違があること、被告会社は、平成元年ないし二年頃に被告橋戸に対し、被告車両の名義を被告橋戸に移すよう催促したが、被告橋戸は放置していたこと、被告橋戸は、被告会社の代表者野中信夫の依頼によつて、昭和六三年六月二六日登記簿上取締役となり、登記簿上は平成五年二月九日にも重任されていたこと、そうであるのに、被告橋戸は被告会社の取締役会に出席したことも報酬を受けたこともなく、登記簿上の取締役とされたのは一期のみであると考えていたことが認められる。なお、原告は、被告橋戸は本件事故当時、被告会社の取締役であつた旨主張し、前記のとおり、登記簿上はその旨の記載がある。しかし、被告会社との関係について具体的に供述することから、信用性が高いと推測される被告橋戸の本人尋問の結果からは、登記簿の記載は形式的なものと認められ、他に、それが実質的なものと裏付けるに足る証拠はない。

これらの事実からすると、被告会社は、本件事故当時、被告車両を既に被告橋戸に譲渡しており、他に、実質的に、遠隔地にある被告車両の運行を支配し、その利益を得ていたというに足る事情は認められないから、本件事故当時、被告車両を運行の用に供していたとはいえず、この点からも被告会社には責任がない。

四  結語

したがつて、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。

(裁判官 水野有子)

別紙図面

<省略>

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